『児雷也豪傑譚』とは?NARUTOの三忍の元ネタとされる江戸時代の合巻と歌舞伎
自来也・綱手・大蛇丸という三忍の名前は、江戸時代の物語『児雷也豪傑譚』にそのまま登場します。原典の3人とNARUTOの共通点と違い、蝦蟇とナメクジと蛇の三すくみ、歌舞伎の舞台、そして2025年に出た英訳まで。
自来也、綱手、大蛇丸。『NARUTO -ナルト-』に登場する三忍は、180年以上前の物語がヒントになっています。
蝦蟇の妖術を使う男、ナメクジの妖術を使う女、蛇の妖術を使う敵という組み合わせまで共通。
その物語とは180年以上前の日本人の間で人気だった娯楽小説『児雷也豪傑譚』。のちに歌舞伎になり、日本で最初の特撮映画にもなりました。
なんと、2025年には英訳も出ているので記事の終盤で紹介します。
自来也のモデルになった『児雷也豪傑譚』
『児雷也豪傑譚』は1839年に刊行が始まりました。児雷也(じらいや)という盗賊が蝦蟇の妖術を操り、ナメクジの術を使う綱手と結ばれ、蛇の妖術を使う大蛇丸と戦う物語の「合巻」です。
刊行は1868年まで続きました。これは日本の歴史上では、長らく続いた江戸幕府が倒れ、サムライの世が終わる年です。全43編が作られ、30年近く続編が出続けましたが完結することなく「未完の大作」としても有名とのこと。
そして書き手は一人ではありません。美図垣笑顔が始めたあと、渓斎英泉・柳下亭種員・柳水亭種清へと引き継がれ、計4名が手がけています。
現代で例えるならば、映画スターウォーズやジュラシックパークのような人気作を、数々のクリエイターが引き継いでナンバリングしていくイメージが分かりやすいでしょう。
そして、挿絵を担当した浮世絵師は7人。代表的なのは歌川国貞で、生涯に10,000点以上を描き、作品数においては浮世絵師のなかで最多とされる絵師です。巨大な骸骨の絵などで海外の美術館にも作品が並ぶ歌川国芳も、この7人に入っています。

歌川国芳の代表作『相馬の古内裏』
ここで名前の上がった人物は、現代日本でも名の知られる超一流の絵師たちです。
自来也が亡くなるシーンで登場
作品の中で本作のタイトルが回収されています。
原作の第42巻、自来也が最期を迎える名場面。ここで自来也は自分の生涯を「自来也豪傑物語」と表現します。
アニメ『NARUTO -ナルト- 疾風伝』では、この回のサブタイトルがそのまま「自来也豪傑物語」になっています。英語版のタイトルは The Tale of Jiraiya the Gallant。喪失感の大きい展開ではありますが、漫画版でもアニメ版でもファンから絶大な支持を受けている名場面です。
さて、ここからは原典と作中での共通点を比べていきます。
三忍と原典の3人、何が同じで何が違う?
名前・モチーフとなる生き物・仙人から術を授かる型。この3つは原典と作中で共通しています。少々変わっているのは、児雷也の身分と綱手との関係です。
蝦蟇に乗る義賊、児雷也
原典の児雷也は、悪人だけを狙って盗みをはたらく義賊。巨大な蝦蟇にまたがって妖術を使います。
生まれは武士の家で、本名は尾形周馬弘行。豪族だった尾形家が謀反で滅び、家臣に助けられて信濃、いまの長野県で育ちます。
名前の中に「雷」という字が入っているのは、物語のなかで雷獣を捕らえ、雷太郎と呼ばれるようになった名残。雷獣は「落雷とともに空から落ちてくる」と信じられていた獣です。
仙人から蝦蟇の妖術を授かる
のちに妙香山の仙人、仙素道人から蝦蟇の妖術を授かります。仙人は山にこもって不老の術を得た存在とされ、日本の物語では師匠役を務めます。
江戸時代の挿絵には、大きな蝦蟇の背に立つ男が描かれており、師から蝦蟇の術を受け継ぐ弟子という構図になっています。
仙素道人
作中の自来也は、初登場の名乗りで「妙木山蝦蟇の精霊仙素道人、通称ガマ仙人」と言います。仙素道人は原典で児雷也に術を教えた仙人の名。公式サイトの取材記事でもこの共通点について言及していました。
原典の仙素道人が住む山は妙香山。作中でガマたちが暮らす妙木山とは香と木の一字違いです。
ナメクジの術を使う綱手
原典の綱手は蛞蝓(ナメクジ)仙人から妖術を授かります。立山という霊山のふもと、いまの富山県あたりに住む仙人です。
NARUTOでは自来也が綱手に想いを寄せる描写がありますが、綱手にはすでに大切な想い人がいました。しかし、原典の方では綱手は児雷也と結ばれ、妻になります。
そして、どちらの綱手も「怪力の美女」という設定が共通しています。
蛇から生まれた大蛇丸
大蛇丸は、池に棲む大蛇から生まれた妖術使いです。悪賊として名を上げ、児雷也の宿敵として立ちはだかります。
大蛇(おろち)とは巨大な蛇のこと。蛇そのものから生まれ、蛇を冠した名前を持ちます。
NARUTOの大蛇丸も蛇のマンダを口寄せし、里を抜けて三忍のなかで敵に回る点が共通しています。
蛙・蛇・ナメクジの三すくみとは?じゃんけんとのつながり
日本の古い言い伝えでは、蛇は蛙を食べ、蛙はナメクジを食べ、そしてナメクジは蛇を溶かすとされていました。それぞれに得意不得意のある構図はゲームでもよくある設定ですが、日本語ではこれを「三すくみ」と言います。
世界各国に存在する「じゃんけん」のような構図で、現代日本のじゃんけんと近い「虫拳」が元になっています。
『児雷也豪傑譚』はその型を、3人の妖術使いの関係に当てて物語を展開、NARUTOアニメ版で三忍が口寄せ動物とともに対決する回には、「三すくみの戦い」というサブタイトルが付いています。
NARUTO「自来也」の名前の由来は?
自来也という名前は、中国の盗賊がルーツ。南宋の沈俶がまとめた説話集『諧史』に、我来也という盗賊が出てきます。我来也は「我、来たるなり」という意味で、盗みに押し入った先の壁に、その文を書き残すという大胆不敵な行いです。
そして1806年に日本で『自来也説話』としてリメイクされます。感和亭鬼武という作者による読本で、表記が「自ら来たる」という意味合いの自来也に変わりました。NARUTOのキャラクター名はこちらと同じ漢字表記です。
そして1839年、『児雷也豪傑譚』で、読みの音は同じまま児雷也という漢字表記になります。「雷の児」という、なんとも心をくすぐられる字面です。
児雷也は歌舞伎と日本初の特撮映画にもなった
1852年7月、江戸の河原崎座で、伝統演劇の歌舞伎になります。脚色は劇作家の河竹黙阿弥。児雷也は八代目市川団十郎が演じました。
そして、1921年には牧野省三が撮った『豪傑児雷也』で映画になっており、これは日本で最初の特撮映画とされています。
日本といえばゴジラやウルトラマンですが、その特撮文化における始まりの一本がこの「児雷也」だったのです。
『児雷也豪傑譚』は英語で読める?
2025年4月には『児雷也豪傑譚』の英訳版が出ています。『The Tale of Jiraiya the Gallant』というタイトルで、訳者はアンドレアス・クロンボー・ダニエルセン氏。第2巻もすでに刊行され、2025年のアメリカン・マンガ・アワードで翻訳部門にノミネートされました。
ちなみにこのタイトルは、NARUTO疾風伝第133話の英語版サブタイトルと同じです。
日本人よりも英語話者の方がハードルが低い
実は原典である江戸の合巻は日本語話者にとって、かなりハードルが高いです。くずし字という、現代では珍しい書体で書かれており、専門の訓練なしには読み解けないのが大きな理由です。
また、現代の活字に起こされた日本語版の書籍は定価が63,800円と高額で、軽い気持ちで手に取れるものではありません。費用を抑えたいのであれば図書館へ行ったり、オンライン上で図書館へ申請を出して閲覧する必要があります。
それに比べると、英訳版は非常にリーズナブルな価格で手元に届き、楽しめることは大変羨ましく感じます。
まとめ:歌舞伎との繋がり
自来也のキャラクターデザインは「歌舞伎」を連想させるものになっています。衣装や被り物だけでなく、名乗りを上げる時のポーズ、術を使用する時の隈取のような化粧などの要素が散りばめられているのが非常に”粋”。
そんな歌舞伎と関わりの深いNARUTOが、現代の表現を取り入れた「新作歌舞伎」として公演されていました。新作歌舞伎についての記事で触れていますのでぜひチェックしてみてください。
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