『あかね噺』志ぐま一門の“寺子屋”・こぐまが披露した『今戸の狐』を解説

落語家が主人公の珍しい古典落語『今戸の狐』。アニメ『あかね噺』でこぐまが披露した演目です。内職する落語家とヤクザの勘違いが生む笑い、日本初の職業落語家・三笑亭可楽の登場など、見どころを解説します。

約4分
『あかね噺』志ぐま一門の“寺子屋”・こぐまが披露した『今戸の狐』を解説

学生・アマチュアの落語大会「可楽杯」に出場することになった朱音は、前座噺として有名な『寿限無』で勝つために、兄弟子・こぐまに指導を願い出ます。

こぐまの特徴は、噺の歴史や時代背景を徹底的に調べて演じること。知識の豊富さから、「志ぐま一門の寺子屋(江戸時代の学校)」と呼ばれています。古典落語『今戸の狐』には、「可楽杯」の名前のもととなった落語家・三笑亭可楽が登場します。こぐまは高座の枕(本編前のフリートーク)でも可楽について触れ、歴史的な話から本編へと入っていきました。

『今戸の狐』のあらすじ

Four gray cat statues sit in a row on a ledge, one facing away.

今戸焼の猫/今戸焼は東京・今戸周辺で作られていた素焼きまたは楽焼の陶磁器のこと。

この物語に登場するのは、落語家の良助とヤクザのグズ虎。良助は戯作者(江戸時代の娯楽小説家)の弟子ですが、文章を書く才能よりも話術の才能があったことから、師匠の紹介を受けて落語家・三笑亭可楽の弟子となります。しかし、当時の前座は収入がなく、寄席でくじを売っていました。良助は住み込みではなく通いの弟子なので、これだけで暮らしていくのは厳しい。可楽はすぐ二ツ目にしてくれましたが、出費もかさむようになり、生活は苦しいままです。

売れない芸人が生活のために始めた内職

そこで良助は師匠に内緒で、今戸焼の狐に彩色する内職を始めます。当時の感覚だと、芸人が内職をするというのは恥であり、師匠に知られれば破門されていました。そこで良助は家の戸締まりをし、天窓からの光を頼りに内職をしていました。

ふとしたことから内職仲間が誕生

良助の家の裏は小間物屋(日用品や化粧品などを売る店)で、おかみさんは近所の人たちから「コツの妻(さい)」と呼ばれています。元はコツ(小塚原)で女郎(娼婦)をしていた女性ですが、気配り上手でよく働き、近所付き合いもよいことで評判のおかみさんでした。

顔を合わせると面白い話をしてくれる良助の姿が見えないのを気にしていたおかみさんは、ある日、良助が内職していることを知ります。おかみさんも内職をしたいと考えていたため、良助に頼んで彩色の仕事を教わり、どんどん上達しました。

博打好きのヤクザが物語に介入

一方、可楽の家。前座たちがくじの売り上げを数えている音を聞いたヤクザのグズ虎は「サイコロで博打してやがる。今はやりの“狐”だな」と勘違い。「明日の朝、可楽のところに行こう。ご法度(違法)の博打について脅したら金になるぞ」と考えます。

“狐”とは、サイコロ賭博の一つ。子はそれぞれ任意の目にチップを張り、親がダイス3個を振ります。掛けた目が出た数に応じて倍率が上がっていくため、ギャンブル性が高い賭博です。

翌朝、グズ虎にゆすられた可楽ですが、当然何の話か分かりません。グズ虎が「素人相手に狐をやっているのを黙っていてやるから、いくらか寄こせ」というのを聞いてようやく意味を理解し、「博打は大嫌いで、弟子がやっていたら破門します。何かの間違いでしょうからお引き取りください」と切り捨てます。

腹を立てたグズ虎に、弟子の一人が「狐と聞こえたので内緒で教えますが、今戸に住んでいる良助というものが作っています」と教えます。

勘違いが生み出すサゲ

グズ虎は意気揚々と良助の家に行き、「師匠のところで聞いたが、ここで狐ができるらしいな」と訊ねます。内職がバレたと勘違いした良助は腹をくくって「こちらにあります。壊さないでくださいよ」と、彩色した狐の焼き物を見せました。

博打の話をしているグズ虎は「ふざけるな! 俺が言ってる狐は骨(こつ)の賽(さい)だ!」と怒り、良助が「コツの妻は裏の女将さんです」と答えるのがこの噺のサゲです。

『今戸の狐』の見どころ・面白さ

Traditional Japanese buildings and trees illuminated at night.

江戸の町並み

「狐」という言葉に、今戸焼の置物と江戸時代に流行した賭博、二つの意味があるのがこの噺の面白さです。

「コツ」という女郎屋で働いていたおかみさんと、象牙や獣の骨で作られた高級サイコロの発音がどちらも「こつのさい」であるという言葉遊びがオチになっていて、勘違いが重なる面白さもあります。

そして、落語家として修業中である良助の生活、江戸の人々の暮らしや娯楽がリアルに描かれているのも特徴。時代は違えど同じように修業し、苦労を味わった落語家が演じることで、物語に深みや説得力が加わります。見る側も、江戸の地名、落語や江戸の文化を知っているとより深く楽しむことができます。

良助の落語の師匠として登場する三笑亭可楽は、日本で最初の職業落語家の一人。1798年に寄席を開き、落語という芸能を育てた、実在の人物です。

つまり、この噺は『あかね噺』で“志ぐま一門の寺子屋”と呼ばれるこぐまが演じるのにピッタリな演目というわけです。

『今戸の狐』を見てみる

アニメ『あかね噺』阿良川こぐまの高座です。

『あかね噺』に登場する落語は、ほかの記事でも解説しています。朱音が可楽杯で挑んだ『寿限無』、第1話の『芝浜』、デビューの高座で演じた『まんじゅうこわい』。気働きを学んで演じ直した『子ほめ』、厳しい先生の心を動かした『転失気』。兄弟子・享二が語った『三方一両損』、阿良川魁生が披露した『稽古屋』もあわせてどうぞ。

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FAQ

落語家が主人公という、古典落語では珍しい噺です。駆け出しの落語家・良助が師匠に内緒で今戸焼の狐に彩色する内職をしていたところ、「狐」をサイコロ博打の名前だと思い込んだヤクザが訪ねてきて、話が噛み合わないまま進んでいきます。
「こつのさい」には二つの意味があります。一つは象牙や獣の骨で作られた高級なサイコロ、つまり「骨の賽」です。もう一つは、かつて小塚原(通称コツ)で働いていた、良助の家の裏の小間物屋のおかみさんを指します。同じ音に別の意味を重ねた言葉遊びで落とします。
実在します。初代三笑亭可楽(1777〜1833)は日本で最初の職業落語家の一人で、1798年に江戸の下谷稲荷社(現在の下谷神社)で寄席を開きました。同じ年に岡本万作も神田で寄席を開いており、この二軒が日本最初の寄席とされています。『あかね噺』の「可楽杯」はこの可楽にちなんだ大会名です。
二人の話がすれ違い続けるおかしさは、演じ手の表情や間からも伝わります。ただしこの噺は同音異義の言葉遊びで落とすので、あらすじとサゲの仕組みを先に知っておくと格段に楽しめます。
外部リンク

『あかね噺』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト

TVアニメ『あかね噺』公式サイト

公開日 最終更新日

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