落語『転失気』を解説、『あかね噺』朱音が厳しい先生の心を動かした演目

アニメ『あかね噺』の第5話で描かれた前座噺『転失気』。 担任の岩清水先生に、「大学に進学せず落語家になる」という進路を考え直すように言われた朱音が、落語に対する覚悟と技量をみせる場面で登場します。 『転失気』という言葉の意味からストーリーの流れ、面白さまで解説します。

約4分
落語『転失気』を解説、『あかね噺』朱音が厳しい先生の心を動かした演目

古典落語の演目で、10分ほどの短い噺であることから「前座噺」の一つとして知られる『転失気』。

『あかね噺』の作中では、朱音の担任・岩清水先生が初めて落語を生で見る場面で登場します。落語家という夢を「一時の憧れ」でしかないと考えていた先生が、たった10分の高座で朱音の本気と力量を理解し、夢を応援するに至ります。

練習に付き合ってくれていた同級生・尾崎も、高座を見て朱音の成長を実感します。朱音の将来を期待させる場面でもありました。

『転失気』のあらすじ

この物語は、知ったかぶりによる失敗を面白く描いた噺です。

ある寺の和尚が体調を崩し、往診に訪れた医師から「てんしき」はあるかと尋ねられます。「てんしき」が何か知らない和尚ですが、知らないというのは恥ずかしいと考え、「ありません」と答えてその場を逃れます。

小僧の「てんしき」探し

医師が帰った後、小僧(お寺で修業をしている若い僧)を呼びつけ、「てんしき」が何か探りを入れます。しかし小僧も意味を知りませんでした。和尚は「教えてもいいが、それではお前のためにならない」と言います。そして医師の家へ薬を取りに行くついでに、近所で「てんしき」を借りてくるよう小僧に命じました。

小僧は色々な人に訊ねますが、みな何のことかわからないのに知ったかぶりし、言い訳をして貸すのを断ります。医師の家を訪れた小僧が意味を問うと、医師は「転失気とは“気を転め失う”と書く。つまり屁のことだ。腸の働きを見るために、屁があるか聞いたのだ」と答えました。

「転失気」という言葉は中国の医学書『傷寒論』に登場する医学用語です。漢字の意味は「転」が転じる、「失」が失う、「気」は腸内のガス。腸のガスが転じて外に出ること、つまりおなら(放屁)そのものを表す言葉です。医師は転失気があるかどうかで、腸がきちんと働いているかを確かめていました。

小僧の仕返しとサゲ

偉そうにしていた和尚が「転失気」を知らないと気付いた小僧は、寺に戻ると「てんしきとはさかずき(お酒を飲むときに使う杯)のことです」と嘘を吐きます。和尚は「これからは来客があったときに大事にしている呑酒器(てんしき)を見てもらおう」と言い、さかずきを出しておくよう小僧に命じます。

その後、医師が再び往診に訪れます。「てんしきがありました」という和尚に医師が「それは良かったです」と答えると、和尚は「自慢のてんしきをお目にかけましょう」と言って医師を驚かせます。ただ一人事情を知っている小僧は笑いをこらえながらさかずきの入った箱を運び、蓋を取って見せます。

医師の反応から一杯食わされたことを知り、小僧を叱る和尚。「人をだまして恥ずかしいと思わないのか」と叱責された小僧が「ええ、屁でもありません」と答えるのがこの噺のサゲです。

サゲのバリエーションが豊富なのも特徴

上方(大阪・京都)では、医師が「お寺ではさかずきをてんしきと呼ぶのか?」と尋ね、和尚が「昔から寺ではそう呼びます」と答えることも。どのくらい昔からそう呼んでいるかと聞かれた和尚が「奈良・平安(おなら、屁ーあん)から」というダジャレでサゲます。

また、医師に「なぜさかずきがてんしきなのか」と聞かれて「重ねるとブーブーが出る」からと答えるサゲや、小僧に騙されたと知った和尚が「どおりで臭い話だと思った」と言ったり、「どちらもつまみが必要(さかずきはお酒のつまみ、屁は鼻をつまむこと)」と洒落を言ったりするサゲもあります。

『転失気』の見どころ・面白さ

この噺の魅力は、立場のある年長者が恥を恐れて知ったかぶりし、若者に騙されるという滑稽さにあります。

医師が何気なく専門用語を使ったことで、和尚はもちろん、街の人々もみな知ったかぶりをするという連鎖が起きます。知らないと言えずに見栄を張ってしまう、人の弱さを笑う噺です。苦し紛れに知ったかぶりをする人々の様子で、いかにお客さんを笑わせるかがポイントとなります。

また、嘘を吐いて和尚に一杯食わせる小僧をどう演じるかも、演じ手の力量が出る部分。日ごろから威張っている和尚にやり返す小僧という人間関係の妙が描かれています。

『転失気』を見てみる

アニメ『あかね噺』で朱音が披露した『転失気』です。

柳家喬太郎による『転失気』です。

桂福丸による子供向けの『転失気』です。

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公開日 最終更新日

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