Reisho
意味
冷笑(れいしょう)は、さげすんで笑うこと、あざ笑うことを意味する言葉。「冷笑を浮かべる」のように使う古い漢語である。ネットでは、他人の真剣な主張や熱意を、一段高い位置から冷ややかに茶化す態度を指すことが多い。
そうした態度をとる人を冷笑系と呼ぶ。その人たちをひとまとめにして、冷笑界隈ということもある。冷笑系は自分から名乗るより、他人を批判するレッテルとして使われやすいとされる。一方、女子中高生のあいだでは、熱中している人を見るとつい一歩引いてしまう距離の取り方を指す言葉としても広まっている。
2025年ごろからは、冷笑に使われる決まり文句そのものをネタにして遊ぶ動きも出てきたとされる。
語源
「冷笑」という言葉は昔からあり、意味自体は変わっていない。
ただし2020年代からインターネットの影響で増えた傾向として、頑張っている人を馬鹿にする場面で使われることが多いことが挙げられる。
漢語としての冷笑
冷笑は中国の古典にも見える漢語で、漢字辞典の字通には史書『北史』の例が載っている。日本では、南北朝時代の禅僧・義堂周信による漢詩文集『空華集』(1359〜68年ごろ)に「冷笑人間万事非」の句が見える。日本国語大辞典の挙げる用例では、これが最も古い。
江戸時代には、洒落本と呼ばれる読み物の『風俗八色談』(1756年)にも用例がある。冷笑的という形については、夏目漱石の小説『明暗』(1916年)が同じ辞典の挙げる最古の用例である。
ネットで語られ始めた冷笑系
冷笑系という言葉を、いつ誰が使い始めたのかははっきりしない。ネット上の皮肉な態度そのものは、掲示板の時代から論じられてきた。2005年には社会学者の北田暁大が著書『嗤う日本の「ナショナリズム」』で、匿名掲示板2ちゃんねるに見られるアイロニーを取り上げている。
2019年12月には、当時法政大学教授の津田正太郎が講談社のウェブメディア現代ビジネスで冷笑主義を論じた。津田はこれを、他者の言動をつねに利己的な動機で解釈しようとする態度として説明している。
2020年6月のForbes JAPANの記事は、政治的な主張や社会活動を独りよがりとみなし、上から目線で冷笑する人々を冷笑系と呼んだ。直前の5月には、「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグがTwitter(現X)で広がっていた。記事は、この動きに賛同した芸能人へ向けられた冷ややかな反応を例に挙げている。
ミームになった冷笑
2025年ごろからは、短い決まり文句に冷や汗の絵文字😅を添える冷笑の型が、ネタとして出回るようになったとされる。「うおw😅」「かっけーw😅」「そこまでw😅」のように、他人の真剣な投稿へ一言だけ返す形。このうち「うおw」は配信のコメント欄が発祥とされるが、元ネタには諸説ある。
2026年6月には、民間企業のAMFとSkyfallが発表した「JC・JK流行語大賞2026上半期」で、冷笑系がコトバ部門の3位に入った。全国の女子中高生約1,000人を対象にした調査による順位である。
用例
- 1 「新人のころ、会議で意見を言ったら先輩に冷笑されたことがあってさ」「あの鼻で笑う感じ、地味に引きずるよね」
- 2 「推しのライブ行くって投稿したら、服装いじってくる引用がついてた」「そういう冷笑は気にしなくていいって。楽しんだもん勝ちだよ」
- 3 「新曲の感想を長文で書いたら、うおw😅ってリプ来た」「お手本みたいな冷笑じゃん。こっちもかっけーw😅って返しとけば」
- 4 「文化祭でクラスが盛り上がってても、なんか一歩引いちゃうんだよね。ちょっと冷笑系かも」「わかる。でも当日はたぶん普通に楽しんでるよ」
補足
嘲笑・失笑との違い
冷笑・嘲笑・せせら笑いは、どれも相手を見下して笑うことを表す。日本国語大辞典の語釈では、冷笑は「さげすみ笑うこと」、嘲笑は「あざけり笑うこと。からかい笑うこと」。語釈を比べると、冷笑はさげすみに、嘲笑はからかいに重心がある。
失笑は本来、思わず噴き出して笑うことを指し、見下す意味を含まない。文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査」では、この本来の意味を選んだ人は26.4%にとどまった。「笑いも出ないくらいあきれる」を選んだ人は67.0%にのぼる。
英語の cynic との関係
冷笑主義は、英語の cynicism の訳語として使われる。cynic の語源は、古代ギリシャの哲学の一派キュニコス派にある。犬儒派とも訳されるこの名は、ギリシャ語で「犬のような」を意味する kynikos に由来するとされる。
犬と呼ばれた理由には2つの説がある。学派の祖アンティステネスが教えた体育場キュノサルゲスの名に由来する説と、慣習を拒む生き方をさげすんだ呼び名とする説である。
英語の cynicism の重心は、他人の動機への不信にある。動機を利己的とみなす点で、津田正太郎の論じた冷笑主義もこれと重なる。ネットの冷笑系は、動機を疑うことより、真剣さを笑う振る舞いを指す。行為としての冷笑は、英語でいえば sneer に近い。
冷笑系への批判
Forbes JAPANやニューズウィーク日本版の記事は、社会や政治の課題に声を上げた人への冷笑を批判的に取り上げている。中身に反論せず、主張する人を見下して笑う点が問題とされる。
- 外部リンク
冷笑(精選版 日本国語大辞典 ほか)— コトバンク
複数の辞書の語釈をまとめた辞書資料。日本国語大辞典が最古の用例とする『空華集』の句や、字通が挙げる『北史』の例を収録。
令和5年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 — 文化庁
「失笑する」の意味を尋ねた設問の一次資料。本来の意味を選んだ人は26.4%、「笑いも出ないくらいあきれる」を選んだ人は67.0%。
ネットを支配する「シニシズム」「冷笑主義」という魔物の正体 — 現代ビジネス
当時法政大学教授の津田正太郎による2019年12月の論考。冷笑主義を、他者の言動をつねに利己的な動機で解釈しようとする態度として論じている。
人の正義を笑うな。SNSに蔓延する「冷笑主義」はなぜ危険なのか — Forbes JAPAN
政治的な主張や社会活動を独りよがりとみなし、上から目線で冷笑する人々を冷笑系と呼んだ2020年6月の記事。検察庁法改正案への抗議に賛同した芸能人への反応を例に挙げている。
「冷笑系」はなぜ活動家を嫌うのか — ニューズウィーク日本版
作家・評論家の古谷経衡による2022年10月のコラム。社会や政治の課題に熱心な活動家を見下して嘲笑する傾向として、冷笑系を論じている。
JC・JK流行語大賞2026上半期を発表!「ルッキズム風刺画」「setlog」「ワホー」がランクイン! — PR TIMES
冷笑系がコトバ部門3位に入った「JC・JK流行語大賞2026上半期」の発表資料。全国の女子中高生約1,000人を対象にした調査による。
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