日本への旅行を検討中ですか?

【初心者向け】歌舞伎のオススメ演目

Sana Yoshida profile image

Sana Yoshida

【初心者向け】歌舞伎のオススメ演目

日本の伝統芸能である「歌舞伎」。1603年に出雲阿国が始めた踊りをもとに、江戸時代に形成された演劇です。歴史的な出来事を描く壮大なものから、恋愛や日常のちょっと面白い出来事を描く身近な話、踊りの美しさを見せるもの、現代的なテーマや2.5次元舞台的な作品まで、幅広い演目が上演されています。

現在、歌舞伎のレパートリーは主要なものだけでも約300作品と言われています。その中から、名作と名高い定番作品をいくつかご紹介していきます。公式から動画が発信されている場合は、そちらもあわせて紹介しているので、お気に入りの作品を見つける際の参考になれば幸いです。

歌舞伎三大名作

まずは「歌舞伎といえばこれ」と言える、歌舞伎における三大名作です。

仮名手本忠臣蔵

江戸城・松の廊下で吉良上野介に切りつけた浅野内匠頭が切腹、お家取り潰しを命じられたことに異議を唱えた家臣・大石内蔵助らの仇討ちという実際の事件を題材にした物語です。

物語の題材となった事件

当時、殿中(将軍の居所)における刃傷は死罪と決まっていたのに加え、幕府が朝廷の勅使を招いて接待を行っている中での出来事だったことから、浅野は即日切腹を命じられました。

当時、武士の間でのトラブルは「喧嘩両成敗」とされることが基本で、実際に浅野の凶行も吉良に対する遺恨からだったと言われています。ところが、吉良には何のお咎めもなく、また、浅野による襲撃で受けた傷も浅かったと言います。

これを受けて、浅野家の筆頭家老・大石内蔵助は浅野の領地である赤穂藩の混乱回避に努めたのち、希望者を募って浅野の仇である吉良邸に討ち入りを行いました。世間では赤穂浪士たちに同情的な意見も多く、悲劇のヒーローのような扱いをうけました。

忠義を尽くした武士たち

忠義を尽くした武士たちの物語として、歌舞伎はもちろん演劇、文芸、音楽、絵画、映画やテレビドラマなど、様々な作品のモチーフとなっています。

仮名手本忠臣蔵』が生まれたのは江戸時代ですが、当時の幕府に対する批判が込められていたこともあり、物語の舞台を室町幕府将軍・足利尊氏の時代に挿げ替えて描かれています。現在でもほとんどの段が上演されている大人気の演目といえます。

義経千本桜

源平合戦で大きな活躍を見せながらも、兄・頼朝に疎まれて都落ちした義経の生涯と、彼を取り巻く人々を描いた物語です。タイトルに「義経」と入っているものの、義経本人の登場はそれほど多くなく、むしろ義経への復讐を目指す平家の人々にスポットが充てられています。

平知盛

本作で活躍する人物の一人目は、源平合戦で死亡したと思われていた平知盛。平家の再興をもくろんでいた彼が、野望が潰えたことを知り、碇の縄を体に巻いて海中へと沈んでいくシーンは必見です。

いがみの権太

二人目は大和国に住む「いがみの権太」という青年。妻子がいながらゆすりなどの悪事で生きていた男の悪だくみがコミカルに演じられる様子、家族愛と悲しい結末により人気の高い演目です。

狐忠信

三人目は、義経の家来に化けて静御前のお供をする狐忠信という狐。義経が後白河法皇から賜った「初音の鼓」の皮にされた夫婦狐の子供が、親恋しさから人間に化けて静御前を守りながらついてきたいう物語です。家来としてふるまいつつ、鼓の音にうっとりしたり、狐のようなしぐさを見せたりと、ユーモラスで愛らしい芝居が見所です。

子狐が親を慕う心に感動した義経は、狐忠信に「初音の鼓」を与え、そのお礼として横川覚範という僧が夜討ちを企てていることを教えられます。この覚範も、死んだと思われていた平氏の武将・能登守教経でした。

菅原伝授手習鑑

宇多天皇に重用され多くの人々に敬われながら、藤原時平によって左遷され、大宰府で死亡した菅原道真の悲劇を描いた作品です。父・菅原道真/菅丞相(かんしょうじょう)と、梅王丸・松王丸・桜丸という三つ子の兄弟にまつわる別れがそれぞれ異なる趣向で語られる、涙なしには見られない物語となっています。

良かれと思ったことが発端となり追放

まず描かれるのは、帝の弟・斎世親王と菅丞相の養女・苅屋姫の恋を手引きする桜丸と妻・八重。藤原時平に「菅丞相は権力を握りたいと思っている」と言われ、島流しを宣告される発端となるエピソードです。

刺客から逃れる緊張の一幕

続いては、筆法の技術を伝授することを命じられた菅丞相が、勘当されていた愛弟子・武部源蔵に技術を伝える話です。また、大宰府に送られる途中、菅丞相は叔母の屋敷に立ち寄ります。藤原時平の命で命を狙う刺客からどう逃れるのかが見所になっています。

兄弟を巻き込む政治の争い

ここから物語は三つ子の兄弟を中心に動き出します。梅王丸は菅丞相、松王丸は藤原時平、桜丸は斎世親王に仕えていましたが、時平の策略によって菅丞相と斎世親王が失脚。兄弟間にも遺恨が生まれます。

時代物

歴史的な出来事を題材に描いた作品が「時代物」と呼ばれます。江戸時代以前の出来事を描いたものもあれば、幕府に忖度し、江戸時代の事件を過去の出来事としてフィクションのようにしたものもあります。時の権力者に対する皮肉や批判が含まれている作品もあり、大きな人気を博しました。

勧進帳

兄・頼朝によって全国に指名手配され、逃亡している源義経が、安宅の関所で関守富樫左衛門から取り調べを受ける様子を描いた作品です。

物語のはじまり

追手から逃れるため修行僧である山伏の変装をし、家来である弁慶が先頭に立ち、義経は荷物持ちの振りをしていましたが、切れ者の役人・富樫は簡単には関所を通しません。寺院などの建立に対する寄付を募る書類であり、関所を通過するためのパスポートとなる「勧進帳」を読み上げるよう命じます。弁慶は白紙の巻物を取り出して架空の勧進帳を読み上げる場面は、この演目の大きな見どころです。

絶体絶命のピンチを救う「忠義」

ようやく通行許可が降りましたが、関所を通ろうとしたところで、富樫の部下が「荷物持ちが義経に似ている」と指摘します。間一髪の危機において、弁慶は主君である義経を助けるためにわざと杖で打ち据え、暴言をぶつけます。

これによって疑いが晴れ、義経一行は関所を通過。関所から少し離れたところで、弁慶は自身の無礼を泣きながら詫び、義経はその忠義に感謝を述べます。そんな彼らを追って富樫がやってきますが、彼は義経を尋問することなく酒を勧めます。実はこの富樫、山伏一行の正体が義経たちであると見抜いていながら、弁慶の忠誠心と見事な機転に感服し、見逃す決意をしたのでした。その心遣いに気付いた弁慶もまた、心の中で感謝しながら酒を飲み、華麗な舞を披露します。

義経を助けるため心を鬼にする弁慶の覚悟と忠義、彼らの正体に気付きながらもその思いを汲んで関所を通す富樫の心意気が胸を打ちます。

世話物

当時の人々の生活や文化が描かれた作品です。時代物と比べるとセリフやストーリーがわかりやすく、気楽に見ることができる演目が多くあります。男女の恋愛をテーマにした艶っぽい作品が多いのも特徴です。

青砥稿花紅彩画(白波五人男)

知らざあ言って聞かせやしょう!」のセリフで有名な演目です。また、日本駄右衛門(にっぽんだえもん)・弁天小僧菊之助(べんてんこぞうきくのすけ)・南郷力丸(なんごうりきまる)・赤星十三郎(あかぼしじゅうざぶろう)・忠信利平(ただのぶりへい)という5人の泥棒が一人ずつ見えを切り、リズミカルな「連ね」で名乗るシーンは、特撮の戦隊ヒーローの名乗りの元になったと言われています。

義賊集団「白波五人男」の活躍と大立ち回りが爽快であると同時に、お家騒動や親子の物語を描いた作品でもあります。

人情話分七元結

腕は立つが博打が好きで借金を抱える長兵衛の身に起きた奇跡を描いた物語です。

長兵衛の娘・お久は、父と母のためにお金を作ろうと吉原の女郎屋・角海老に身売りをします。孝行娘に感心して長兵衛に五十両の金を貸した女将は「次の大晦日までに金を返せなければお久を店に出す」と厳しく告げました。

改心した長兵衛は、帰り道で身投げしようとしている若者に出会います。お屋敷へのお使い帰りに五十両の大金をすられ、死んで詫びるという若者に、長兵衛はお久が身を売って作ったお金をそっくり渡してしまいました。

多くの人物が登場し、当時の町民文化や雰囲気を知ることができる演目となっています。

曽根崎心中

元禄16年に起きた実際の心中事件を、浄瑠璃作者の近松門左衛門が描いた演目です。

売れっ子遊女のお初と、恋人・徳兵衛が叶わぬ恋をはかなみ、来世で一緒になることを願って心中する物語は大ヒットとなり、「心中物」と呼ばれる作品が流行しました。しかし、実際の心中事件も増えたことから、幕府によって上演が禁止されました。

桜姫東文章

生まれつき左手が開かない障害を持って生まれた美貌の娘・桜姫の数奇な運命を描いた物語です。早替わり、濡れ場、怪談や殺しといった場面に加え、かつての恋人の生まれ変わりである桜姫に執心する高僧、桜姫の家が取り潰しになるきっかけを作った元婚約者や家臣、桜姫を強姦し、夫婦になるも女郎屋に売り飛ばす盗賊……と、人間の業を描いたスキャンダラスなストーリーが話題を呼びました。

名家の娘である世間に疎い姫が切見世女郎にまで転落し、お姫様らしい上品な言葉と女郎の言葉を使って話す様子も、この演目の見所です。

所作・舞踊

上演時間が1時間程度で、踊りが中心となる演目です。能や狂言をベースにした踊りもあれば、ストーリー仕立てのものまで様々です。

連獅子

派手な衣装を身にまとい、赤と白のかつらをかぶった役者が豪快に毛振りをすることで知られる演目です。前半では親獅子が子獅子を谷底に落とすという厳しい試練を与え、這い上がってきたことを喜んで親子で舞い踊る様子、宗派の違う僧たちが自身の信じる神のすばらしさを語るユーモラスな狂言「宗論」を挟んで後半は獅子の精による豪快な舞が行われる演目で、見た目の分かりやすさや華やかさから「歌舞伎」のアイコンのひとつになっています。

毛振りは百獣の王である獅子の力強さを表しているとともに、神がかり(トランス)状態になっている様子を表します。獅子の親子という役柄、親獅子が子獅子を厳しく教育する様子と重なるためか親子共演も多く、歌舞伎ファンに人気の演目です。

鷺娘

悲しい恋に苦しむ娘を白鷺に重ね、静かながらドラマティックな踊りで表現する舞踊です。一面の雪景色、娘が身にまとう白無垢、シーンに合わせた衣装替えの華やかさ、変化が多く聞きどころの多い音楽と、女方の魅力と技術が詰まった演目といえるでしょう。

現代最高峰の女方と名高く、人間国宝でもある坂東玉三郎の当たり役としても有名です。

新作歌舞伎

第二次世界大戦以降、新たに作られた演目を「新作歌舞伎」と呼びます。作家によるオリジナル作品、古典をベースに現代の物語として新訳をした作品、2世市川猿翁が創案したスーパー歌舞伎など、幅広い演目がこれにあたります。

スーパー歌舞伎 ヤマトタケル

日本神話のヤマトタケル伝説を題材に、派手な立ち回りと舞台装置、きらびやかな衣装、現代音楽の要素を盛り込んだ楽曲で物語を彩ったスペクタクル作品です。

伝統的な歌舞伎の魅力に、幅広いジャンルの要素を組み込んでより分かりやすく華やかなエンターテインメントに仕上げており、それまで歌舞伎と縁がなかった人々からも注目を集めました。

スーパー歌舞伎Ⅱ ワンピース

尾田栄一郎による人気漫画『ワンピース』を舞台化した作品です。『頂上戦争篇』をメインに、シャボンディ諸島やアマゾン・リリー、インペルダウン、マリンフォードなどが描かれています。ワンピースの世界が歌舞伎らしい衣装とメイクで形作られ、超人的な能力やバトルシーンも、宙乗り(フライング)や本水(大量の水を使った立ち廻り)で表現されています。

新作歌舞伎 風の谷のナウシカ

宮崎駿が13年かけて描き、スタジオジブリで映画化もした『風の谷のナウシカ』。映画では漫画の一部が映画化されましたが、歌舞伎公演ではストーリー全体を前後編2部作とし、6時間にも及ぶ演目として上演されました。ナウシカとクシャナという二人の姫を主軸にした、ダブルヒロインもののような作品は歌舞伎作品の中でも珍しく、女方の競演も見所です。

映画『国宝』で登場した演目

日本で2025年6月6日に公開され、大きな反響を呼んだ映画『国宝』。

歌舞伎役者たちからも絶賛を受けた、この映画に登場した演目について、上記項目で紹介した「連獅子」「曽根崎心中」「鷺娘」を除く3作品をご紹介します。

関の扉(せきのと)

「積恋雪関扉(つもるこい ゆきの せきのと)」という所作事の演目です。先帝の忠臣・良峯少将宗貞と元恋人の小野小町姫、関守の関兵衛、遊女を名乗る墨染による恋と謀反の物語で、常磐津舞踊劇の大曲として知られています。

上巻では、宗貞と小町姫の再会、関守の正体を怪しんだ小町姫が都へ走る様子が描かれています。下巻では関守の正体が転嫁を狙う大判黒主だったことが判明。さらに、墨染という遊女の正体は雪の中で満開の花を咲かせている小町桜の精だということもわかります。野望の実現を目指す黒主と、それを阻止しようとする桜の精の戦いが美しい舞踊です。

二人藤娘

女方が美しい娘に姿を変えた藤の精として可憐に舞い踊る人気演目「藤娘」を二人で演じる作品です。初演は坂東玉三郎と中村七之助によるもので、平成26年(2014年)とまだ歴史の浅い演出ながら、艶やかな女方の競演が大きな評判を呼びました。

「藤娘」の見所は、恋しい男を思う女心を初々しく、愛らしく表現する踊りと衣装替え。舞踊の基礎が盛り込まれた演目で、20分程度の短さながら役者の技量が試される演目です。

二人道成寺

「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」の演目で、女方舞踊の最高峰とも呼ばれています。『娘道成寺』は、安珍という僧侶に一目惚れした清姫が恋に狂って大蛇となり、安珍を殺して自らも入水したという「安珍・清姫伝説」をもとにした物語です。

二人の女役が踊りを競う「二人道成寺」以外に、立役が主演を務める「奴道成寺」、立役と女方で踊る「男女道成寺」などの派生があり、いずれも高い人気を誇っています。

関連リンク

映画『国宝』公式サイト

この記事をシェア
公開日
最終更新日