歌舞伎用語解説 【機構・役者・奏者】

Sana Yoshida

日本の伝統芸能である「歌舞伎」。2009年に無形文化遺産に登録されるなど、日本を代表する芸能のひとつといえるでしょう。歌舞伎には独自の用語と様々なお約束があり、それを理解することでより深く演目を楽しむことができます。この記事では、舞台や役柄に関する基本的な用語を解説します。
派手で華やかな舞台機構
「歌舞伎」といえば、華やかで派手な舞台機構を思い浮かべる方も多いでしょう。
かつては能舞台や屋外で行われていましたが、享保3年(1718年)頃から発展を始め、屋根がつけられて全蓋式になり、花道や廻り舞台などの工夫が生まれました。
花道
舞台の下手にある、舞台と鳥屋(とや/花道の突き当り奥にある小部屋で、役者や小道具が出番を待つ場所)をつなぐ通路です。廊下や道など、様々な場所を表すのに使われます。
演目によって、上手にも仮花道と呼ばれる通路が設置されることがあります。
すっぽん
花道にある小型のせりです。主に妖術使いや妖怪、幽霊など、人間離れしたものの登場・退場に使われます。
廻り舞台(まわりぶたい)
舞台中央にあり、水平に回転します。手前と奥に2つの場面を作っておくことで、素早い場面転換が可能となります。
せり
奈落(ならく)と呼ばれる地下からせりあがり、役者の登場や退場に使われます。また、大道具をせり上げることで、地下を見せるなど迫力ある演出を行うことができます。
動画で舞台装置を見る
日テレNEWSカルチャーの公式チャンネルが、歌舞伎の舞台裏を案内する動画を公開しています。
歌舞伎舞台の裏側を紹介する動画
一般客はなかなか入れない場所も見られる貴重な動画なので、興味がある方はぜひご覧ください。
歌舞伎役者の役柄
登場人物は年齢や職業、物語における役割などによって、衣装や鬘、化粧、演技の型が決まっています。これにより、観客は「あれは主人公で、これが敵だな」と判断することができます。
特にわかりやすいキャラクターはかなりデフォルメされており、アニメや漫画の「熱血主人公」や「嫌味な権力者」のようにわかりやすく描かれているんですよ。
立役(たちやく)
多くの演目で主役となる成年男子の役と、それを演じる役者を指します。 力強く勇敢な人物である「荒事(あらごと)」、冷静な常識人である「実事(じつごと)」、恋愛物に登場する美男子の「和事(わごと)」、前髪姿の少年である「若衆(わかしゅ)」などがいます。「実事」の中でも、思慮分別に富み、芝居の終盤で颯爽と事件を解決する役は「捌き役」と呼ばれます。
女方(おんながた)
歌舞伎では、幼い子供以外の役柄を男性が演じます。若い女性である「娘役」、貞淑な年配の女性である「世話女房(せわにょうぼう)」、華やかな遊女である「傾城(けいせい)」、位の高い女中や武家女房である「片はずし(かたはずし)」、年増や老女の「花車方(かしゃがた)」などがあります。
女性らしいたおやかな所作、美貌が求められるとともに、花魁などの華やかな衣装、かつらや下駄を身に着けると総重量は40㎏にもなると言われており、体力と技術を要求される役柄です。
敵役(かたきやく)
悪のカリスマともいえる「実悪」、身分の高い悪人である「公家悪」、天下を乗っ取ろうとする「国崩し」、色男でありながら残忍で冷酷な「色悪」、乱暴者の「赤っ面(あかっつら)」などがあります。
また、邪悪な女性の役柄である「加役(かやく)」に関しては、普段男性の役柄を演じている役者が担当します。
親仁方/老け役(おやじがた/ふけやく)
中高年の男性や老人の役です。作中で重要な役割を担うことが多い役柄です。
道化(どうけ)
三枚目の男性役です。コミカルな扮装や動きで観客を笑わせる役柄です。滑稽な悪役は「半道敵(はんどうがたき)」と呼ばれます。
その他の役
実際に子供が演じる「子役」、人間に化ける動物や精霊、亡霊など、様々な役があります。
歌舞伎の音楽
ナレーションやBGMはもちろん、SEまで、様々な音がその場で奏でられます。芝居を盛り上げるだけでなく、雨や風、波の音、動物の鳴き声、この世のものではない存在の出現まで巧みに音で表現する奏者たちについても見ていきましょう。
囃子方(はやしかた)
三味線や笛、太鼓、鉦、小道具といった鳴物(なりもの)を用いて伴奏音楽や効果音を奏でる楽器奏者のことを言います。
三味線は演目に合わせて、低音が美しい「太棹」、艶やかで落ち着いた音色の「中棹」、軽やかな高音を奏でる「細棹」を使用。
笛は音程が違う12本の「篠笛」と個性的な響きを持つ「能管」、太鼓は様々な効果音に欠かせない「大太鼓」、リズムを表現する「締太鼓(しめだいこ)」「小鼓(こづつみ)」「大鼓(おおづつみ)」があります。
また、金属製の打楽器である「鉦」は、場面に合わせて他種多少なものが使われます。オーケストラなどにも登場することがある「銅鑼」をはじめ、お寺の鐘を小さくした「本釣鐘」、まつりなどのにぎやかな場面で使われる「当り鉦」、三本の小さな足が付いた皿型の鉦である「松虫」などがあります。
他にも、貝殻や小豆などを使用し、様々な効果音が作られています。
長唄
三味線に乗せて詩を歌う奏者のことです。笛や鼓と合わせて、集団やソロでパートを担当します。オペラにおけるオーケストラに近い役割といえるでしょう。
長唄「勧進帳」
竹本/義太夫(ぎだゆう)
人形浄瑠璃を歌舞伎に移した義太夫狂言で活躍します。三味線の演奏に合わせて登場人物の心情、場面ごとのナレーションを担当することが多く、ブルースのようなジャンルの音楽です。
常磐津(ときわづ)
高い声でゆったりと語り、軽やかかつ重厚な雰囲気で物語を彩ります。
清元(きよもと)
歌舞伎音楽の中では歴史が浅く、遊び心にあふれた歌です。派手な語りと繊細な節回し、裏声や鼻音を使った発声が特徴です。
おまけ
歌舞伎の幕開きや幕切れで響き渡る「チョンチョン」という高く澄んだ音。俗にいう拍子木ですが、歌舞伎においては「柝(き)」と呼ばれます。狂言作者・舞台監督がこれを打ち、演目の幕開きから幕切れまで責任をもって進行します。
役者の足取りや物音を強調するために使う時は「ツケ」と呼ばれ、床に置いたツケ板に打ち付けて音を出します。
まとめ
長い歴史にふさわしく、独自の言葉がたくさんある歌舞伎。全部覚えるのは大変ですが、少しでも知っておくと、実際に見るときに世界観やキャラクターを把握しやすくなります。また、物語や役者だけでなく、舞台機構や音楽も大きな見どころです。ぜひあなたらしい楽しみ方を見つけてくださいね。
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