Yabai
意味
やばいとは、危険が迫っている、または物事が都合の悪い状況にあることを表す形容詞。「バレたらやばい」「終電がやばい」のように、危ない・まずいと感じる場面で使うのが本来の用法である。
近代では、すごい・最高だという強い感動を表す言葉としても広く使われる。絶品の料理を前にして「やばい」、推しのライブを見て「やばい」と、称賛の場面でも自然に口をつく。
肯定と否定のどちらにもなり、その両方を兼ねた強調にも使えるのが最大の特徴。感情や程度が振り切れたときに、その大きさだけを一言で表す言葉と考えると分かりやすい。「宿題の量がやばい」のように、良い悪いを離れて、ただ程度がはなはだしいという意味でも使われる。プラスとマイナスのどちらを指すかは、口調や表情、前後の文脈から読み取ることになる。
語源
やばいの語源は、江戸時代に盗人や的屋(てきや)が使った隠語にさかのぼる。当時は「やば」という形で、身が危うい、都合が悪いといった意味を表した。江戸後期の滑稽本『東海道中膝栗毛』(1802〜09年刊)にも、「やばな」という形で危ない状況を指す用例が見える。
「やば」がどこから来たのかには、いくつかの俗説がある。江戸の射的場だった矢場が怪しい商売の温床で、近づくと役人に捕まる危険があったからという説。牢屋の看守を「やば」と呼んだことに由来するという説もよく知られる。ただしどれも文献では裏づけられておらず、後から作られた民間語源と見る専門家が多い。
「危険」から「すごい」へ
明治期に編まれた隠語辞典『日本隠語集』(1892年)は、やばいを「危険なこと、つまり悪事が発覚しそうな場合」と説明している。危険や不都合を表す言葉として、明治以降も受け継がれてきた。
肯定的な使い方が芽生えたのは意外に早く、1970年代のジャズミュージシャンのあいだでは、すでに「すごい」の意味で使われていたという。1980年代には若者が「格好悪い」の意味で使う時期もあり、意味は一本道ではなく揺れ動いてきた。「すごい」「最高」という今の用法が若者を中心に広く定着したのは、1990年代後半から2000年代にかけて。2004年ごろにはメディアでも取り上げられ、世代を問わず知られるようになった。
辞書への収録
肯定的な用法は、やがて国語辞典にも記載されるようになる。『大辞林』第三版(2006年)は、やばいに「すごい。自身の心情が、ひどく揺さぶられている様子」という語釈を加えた。俗な若者言葉として広がった意味が、辞書に公認された形である。その後、他の国語辞典も相次いでこの意味を採録している。
用例
- 1 「明日までにこれ全部やらなきゃいけないの、まじでやばい」「それは詰んでるでしょ、早く誰かに手伝ってもらいな」
- 2 「あの店のラーメン、やばいおいしいから一回行ってみてほしい」「そんなに言うなら今度行ってみるわ」
- 3 「財布がどこにもない、落としたかも」「え、やばいじゃん。今すぐカード止めた方がいいよ」
- 4 「新曲のMV見た?ダンスの揃い方がやばいんだけど」「やばいよね、もう何十回も見てる」
補足
肯定か否定かは文脈で決まる
やばいがプラスとマイナスのどちらを指すのかは、言葉そのものからは決まらない。手がかりになるのは、声のトーンや表情、そして前後の文脈。「このケーキやばい」も、うっとりした顔で言えば絶賛、青ざめた顔で言えば体調や賞味期限の心配になる。同じ一語が正反対の意味を持つため、文字だけのやり取りでは書き手の意図が伝わりにくいこともある。
世代で分かれる受け止め方
肯定的なやばいは、若い世代ほど深くなじんでいる。文化庁の「平成26年度 国語に関する世論調査」によると、やばいを「とても素晴らしい」の意味で使うことがある人は、全体では26.9%。それが16〜19歳では91.5%、20代では79.1%にのぼる。一方で上の世代には、やばい=危険という本来の意味しか使わない人も少なくない。同じ言葉を交わしながら、世代によって受け取り方がすれ違う場面もある。
数々の派生表現
やばいからは、くだけた言い回しがいくつも生まれている。音を崩した「やべえ」「やべー」は、主に驚きや感嘆を強めて言うときの形。語幹だけを残した「やば」「やばっ」は、とっさのリアクションとして単独で口にする。
「-み」を付けて名詞のようにした「やばみ」は、やばいと感じる度合いをやわらげて表す言い方で、「やばみが深い」のようにも使う。さらにギャル発の言葉遊びから、やばいと食品メーカーの永谷園をかけた「やばたにえん」が2016年ごろに流行し、その年のギャル流行語大賞で7位に入った。「わろたにえん(笑った)」「つらたにえん(つらい)」など、同じ型の派生語も生まれている。
英語圏にも似た言葉
否定的な意味の言葉が称賛に転じる現象は、英語圏にも見られる。sick(病気の)、crazy(狂った)、insane(正気でない)などは、いずれもマイナスの語でありながら「最高だ」というほめ言葉として使われる。程度のはなはだしさを、あえて物騒な言葉で表すという発想は、やばいとよく似ている。ただしやばいは肯定と否定のどちらにも転ぶぶん、これらの英語スラングよりも意味の振れ幅が大きい。
- 外部リンク
平成26年度「国語に関する世論調査」の結果の概要 — 文化庁
「やばい」を「とても素晴らしい」の意味で使う人の割合を年代別に示した一次資料。全体26.9%、16〜19歳91.5%、20代79.1%。
やばい(精選版 日本国語大辞典 ほか)— コトバンク
複数の辞書の語釈をまとめた辞書資料。「てきや・盗人などが官憲の追及で身辺が危うい意に用いた」とする由来などを収録。
やばい — 語源由来辞典
江戸期の隠語からの語源、矢場説・看守説などの俗説の検証、1990年代以降の肯定的用法への変化を解説。
飯間浩明「ヤバい」— 考える人(新潮社, 2016)
『三省堂国語辞典』編集委員による解説。山下洋輔が1970年代に肯定的に使った例など意味変遷を追い、俗説の語源には慎重な立場を示す。
最終更新日
Japanese
やばい
Hiragana
やばい
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